信州上田之住人
太田 和親
1997年6月23日-7月2日
Date: 23 June 1997
Subject: [syh:00144]ナイロン命名のいきさつ?
SYH(信州大学繊維学部ヤングハート)会員の皆様
全くの知的好奇心から伺います。ナイロン命名のいきさつについて、昨日6月22日の日経新聞朝刊24頁に次ぎのような文章が載っていました。
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「日用品の思想」柏木博(デザイン評論家)
工業生産の最初の合成繊維「ナイロン」の命名は面白い。スーザン・ジョナリスとマリリン・ニセンソンによる「ゴー・ゴーイング・ゴーン」(クロニクル・ブック刊)によれば、1930年代後半には、アメリカはシルクのストッキングの最大の生産国になっていた。しかし、日本との戦争の可能性があり、日本産シルクの供給が断ち切られるおそれがあった。
1935年、デュポン社のウォーレイス・カローザスが溶かしたポリマーから薄い繊維が出来ることを発見した。この繊維はシルクの透明性と綿やウールの強靭さを持つものであった。その後、機械織りの研究を行った。
当初、カローザスたちは、強い繊維なので、名称を「ノー・ラン(NO RUN、ほつれない)」に決定した。だが実際はほつれた。そこで、名称のバリエーションを考えた。「ヌロン(NURON)」という響きでは「NEURON(神経繊維)」のようだし、「NULON」では特許名として平凡だ。結局、「NYLON」に決定した。
・・・・・・・・・・・・(以下略)・・・・・・・・・・・・・・
-------------------------------------------(以上引用)
しかし、私が、昨年定年退官された本学の飯塚英策先生に、以前お聞きしたいきさつは異なっています。
戦前、日本製シルクに悩まされたアメリカの繊維産業は、日本製シルク産業を指導している日本の農林省に、何とか反撃したかった。そこで、日本製シルクに代わるこのカローザスの合成繊維を、農林「NOLYN」をひっくり返すという意味で「NYLON」と命名したのだ。
飯塚先生は長く横浜にある「蚕糸研究所」の研究員を勤められた後本学の教授として赴任され、絹の物性研究を退官されるまで続けられた方です。私は、この飯塚先生のお話しに妙に納得して感動した思い出があります。
上に引用したいきさつより数段、説得力があると思いますが、どなたか真相を知っておられる方は、ご教授頂ければ幸いです。
Date: 2 Jul 1997
Subject: [syh:00152] ナイロン命名のいきさつ?Part 2
本日、昨年定年退官された飯塚英策先生が私の所にお見えになり、ご本人から、私の [syh:00144]「ナイロン命名のいきさつ?」の記事に対し、次ぎのようなReviewを頂きました。
Silk: An Overview
Eisaku IIzuka, Journal of Applied Polymer Science: Appiled
Polymer Symposium, 41, 163-171(1985).
それによると
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The yield of raw
silk reached a maximum in the 1930s: 54,000 tons in 1935, and Japan exported
29,000 tons of raw silk in 1930. It thus
can be seen that Japan hoped much from the export of raw silk in those
days. Therefore, the appearance of
nylon, in the United States in 1938 was a great blow to Japan. Nylon was advertised abroad as being thinner
than a spider's thread but stronger than a steel wire, and it was feared that
silk should be replaced by this newcomer.
The sericulture in Japan declined (and continues to do so) under the
jurisdiction of the Ministry of Agriculture and Forestry (or Norin-sho in
Japanese). If one spells nylon backward,
it reads nolyn and this sounds like norin.
Rumor has it that nylon was so named by the United States in opposition
to Japan, but this seems too far fetched to believe.
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ということで、Nolyn->Nylonはたんなる噂で信じるに足る根拠はないようです。
飯塚先生がおられた、杉並区にあった(横浜というのは私の記憶違いでした)「蚕糸研究所」の中ではこの噂は、戦前からずっと言い伝えられていたそうです。従って蚕糸研究所の誰かがこの後ろからnylonを読むと農林というのに気づいたのではないかということでした。従って、おそらく日経新聞の記事の方が正しいのではないでしょうかということを、飯塚先生はおっしゃられて、このReviewを置いて帰って行かれました。
寺本先生、飯塚先生にご連絡していただきまして有り難うございました。
以上ご報告まで
機能高分子学科 太田