最近、児童虐待の事件が続いていることについて

2019212-17日
信州上田之住人和親



最近、目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5歳)や野田市の栗原心愛(みあ)さん(10歳)など、立て続けに痛ましい虐待死が報道されています。報道されるたびに我々は胸が締め付けられる思いに駆られていることと思います。そして、最近、急に児童虐待が増えてきているように皆さん感じていることでしょう。しかし、残念ながら、下に述べるように、昔はあまり表に出なかっただけで、昔も今と同じくらい虐待が存在していたことがわかります。それらの例も検証しながら、われわれ日本人は、今後どうしたらよいか一緒に考えてみたいと思います。

戦後のベストセラーになった藤原てい著「流れる星は生きている」(日比谷出版:昭和241949)年)のなかに、一緒に満州から引き揚げてくる途中北鮮の街で集団生活している日本人の中で、ある母親が、連れ子を虐待して死なせる話が出てきます。死亡診断書の写しもその本に出ており、虐待死となっています。父親が、敗戦直前に召集され、前妻の子と後妻とが2人だけで、満州からの逃避行となりました。この継母は、途中、子どもを苛め抜いて餓死させる様子が描かれています。藤原ていさんは、作家新田次郎の妻、息子は「国家の品格」(新潮新書:平成172005)年)を書いた藤原正彦です。藤原ていさんは、北鮮から、想像を絶する苦難の末、女一人で3人の子を連れて、日本に生きて帰りました。それを描いたのが、上の「流れる星は生きている」です。強い確固とした愛情がなければ、長い逃避行の苦難の中で、子どもは守れないことがわかります。もともと継子の子供を連れたこの母親は愛情に乏しく、苦難が襲うと子にあたる様子が、読んでいて悲しいです。また、周囲の誰もこの母親に虐待をやめるように注意することもしていないし、子が死んでも咎めることもしていないのが、現在の感覚からは非常に不思議です。見て見ぬふりをしていたといっていいです。

また、もう一例は、戦前、丸亀に有名な弁護士がいましたが、前妻の子、ヒロシは、後妻から毎日苛め抜かれ、それは見ていられないほどだったといいます。門弟は上司の奥さんの児童虐待を止めることができませんでした。昔は目上の者の悪行をただすことは、儒教の教えからできなかったようです。ヒロシは、後に確か、東京の有名なテレビの偉いさんなったと、聞きました。30年くらい前までは、週刊誌に、テレビ番組のことなどで取材されて紙面に登場していたのを覚えています。今も生きていたら90歳くらいじゃないでしょうか。

昭和431968)年に栃木県で起きた事件ですが、父親から長年性的虐待を受け続け、父親の子供を5人産んだ娘が、とうとうこの父親を絞殺した事件です。あまりにもひどすぎる父親を殺したことが、尊属殺人にあたるかどうかが裁判で問われました。当時の刑法では、尊属殺人は死刑か無期懲役しかありませんでしたが、状況があまりにも気の毒で、この事件では娘は超法規的措置で執行猶予付きの有期刑となりました。この事件をきっかけに、尊属殺人は憲法違反に当たるということになり、廃止されました。また、このように家庭内で性的虐待が行われているのを周囲が知っていながら、誰も手を差し伸べてこの女性を救おうとしなかった社会風潮や、未熟な社会制度も問題になりました。<https://www.cyzowoman.com/2013/02/post_7940_1.html>

これとは別に「ファザーファッカー」(文芸春秋:平成51993)年)というタイトルで、父親から性的虐待を受けた体験を、自ら本に書いた漫画家・小説家の内田春菊もいます。春菊の母親は、娘への性的虐待を見て見ぬふりをしていたようです。

また、今たぶん70歳くらいの人ですが、子どものころ父親の虐待に堪えかねて、13歳のとき愛犬とともに家出をして、山中で43年間暮らした人がいます。原始人みたいな生活をしていたので、平成15(2003)に発見されたとき、「洞窟おじさん」として大変有名になりました。<https://www.excite.co.jp/news/article/E1487435243567/>  しかしながら、大変疑問に思うのは、13歳といえば中学生のはずで、義務教育の生徒が家出をして行方不明になっていても、学校も、周りの社会もずっと気づかなかったのかということです。誰も手を差し伸べてこの13歳の子供をを救おうとしなかった未熟な社会制度や社会風潮も、今では問題になるでしょう。

したがって、昔もたくさん虐待があったが、家庭の恥は外には出さずにいる風潮や、見て見ぬふりをする社会的な風潮から、虐待の実数が統計に出なかっただけと私は思います。人間は、人間の性なのか、自分の子や部下をいじめる人が、必ずある一定の割合でいつの時代にもいるようです。社会の監視体制と社会教育が必要でしょう。さもないと、子供のころに虐待を受けた人の中には、人格が複数に分裂してしまう病気、多重人格になる人がいます。あるいは、脳下垂体が縮小してしまいPTSD(心的外傷後ストレス障害)が、その人を生涯、苦しめる場合もたくさんあります。父親や母親になるためには、ちゃんとした親業という訓練を受けるべきだという人もいます。親になるためには愛情がいかに大切なものかがわかります。平成12(2000)年に、児童虐待防止法が制定され虐待を見たら、見て見ぬふりをしてはいけない、国民は通告の義務があるということになりました。 われわれ日本人は今こそ、虐待を根絶する努力と社会成熟が求められていると私は思います。



参考文献

文中引用文献以外に、児童虐待をテーマにした長編小説がある:天童荒太著「永遠の仔」:平成111999)、幻冬舎.





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