カルロス・ゴーン、晩節を汚す
2018年11月21日 随筆
信州上田之住人和親
一昨日の11月19日夜、驚くべきニュースがテレビのテレロップで流れた。
日産の会長カルロス・ゴーンさんが金融商品取引法違反の疑いで日本の東京地検特捜部に逮捕されたというのだ。そしてこの2日間に、だんだん詳細がわかってきた。昨日の日産社長の記者会見による説明や、昨日今日の新聞報道によると、罪状は大きく3つあり、(1)毎年10億円もの高額の給与をもらいながら、さらに億単位の巨額の裏給与を取っており、それを隠して税務署に申告していなかった、(2)会社の金で、本来私用であるはずの自宅をブラジル、フランス、オランダなど世界中に数か所、購入させた。(3)家族旅行など私的な用事にもかかわらず、会社の金で家族旅行をしていた。これらが、もし本当なら、人格を疑うような悪徳と強欲であり、日本人の感覚からは、大企業の社長、会長としての品位に欠けている。そこで、私の脳裏には「カルロス・ゴーン、晩節を汚す」という言葉が浮かんだ。
日本では、明治以来、渋沢栄一の「論語とそろばん」という話があるように、経営者は決して私腹を肥やさず、会社の利益は、公のために尽くすべきだという理想がある。武士でなくても、商人でも、偉くなった人は人格的に優れていなければならない。渋沢栄一のほかにも、パナソニックの創業者の松下幸之助氏が、今も多くの経営者の理想なのは、この明治以来脈々と続く、理想像があるからである。
ゴーンさんは、毎年10億円もの高給をもらっていたが、そのことは、多くの日本人の常識からはかけ離れた額であり、批判されていた。しかし、ゴーンさんは、これはグローバルスタンダードだといって、反論していたという。アメリカのリーマンショックの時にも、リーマン社の社長などは20億円を超える年給をもらっていることが報道されていた。ここで、私は1981年に東芝に入社した時の岩田会長の言葉をしみじみと思い出した。
岩田会長は東芝中興の祖といわれた人である。東芝は100年を超える歴史の中で、何度も苦境の時代があり、それぞれ苦難な時に土光さんや岩田さんなどが現れて、復興させてきた。土光さんは東芝再建の後は、国の臨調のリーダーになり、家では老夫婦でめざしを食べながら、傾いた国の仕組みを立て直しておられた。このNHKの番組を国民は見て、母屋で父や母がめざしを食べているのに、離れで子供たちがすき焼きを食っていてはいけない、みんなでこの国を立て直さないといけないという気持ちにさせられた。岩田さんは、1981年4月の東芝の新入社員の入社式に、我々新入社員1200人に呼び掛けた。それは非常に心にしみる話で、新入社員はみんな岩田さんの言葉に感心し、岩田さんなら、東大の学長にもなってもおかしくないと言い合ったのを、今でも覚えている。
岩田会長の入社式の話は、2つあった。
(1)日本人は勤勉であるといわれているが、明治の初めには、極めて怠け者で家の建前など始めてもすぐに、酒を飲みばくちを始めてしまい、ちっとも工事が進まない。そこで、明治の初めの森有礼という文部大臣は、アメリカの教授に、日本人は人種的に劣るので、西洋の血を入れて人種改造をしないといけないのではないかという手紙まで出していた。しかし、今(1981年当時)日本は、勤勉で仕事熱心だと世界中で言われている。人種的にもともと日本人は勤勉であると君たちは思うかもしれないが、明治のころはそうではなかったのだ。現在(1981年当時)、君たちは、中国人はあまり働かないから、今のように遅れた国のままでいるのだと思っているだろう。しかし、それは間違いだ。人種的な問題ではない。今、同じ漢民族の台湾は、日本人以上に、勤勉である。韓国もそうである。君たちが努力を怠っていると、そのうち台湾や韓国、大陸の中国人にも劣ってしまうこととなる。資源のない日本は、人材こそが資源なのでだから、大いに努力を怠らないように。
(2)今の(1981年当時の)日本は、戦後、営々と復興して現在世界の大国となった。そして、国民のほとんどが中流意識を持ち、貧富の差がなくなって、幸せな国となっている。戦前は、東芝では、新入社員の職工は、月給が現在の価値で1万円くらい、とても生活ができないような給料であったが、東芝の社長は、その職工の1万倍の月給で現在の価値では1億円くらいもらっていた。戦前の日本は、極めて格差社会であり、食うや食わずの人がいる半面、一部の上流社会の人は、高額な世界の名画を買い集めたりできるような社会であった。戦後は、民主主義となり、非常に平等な社会になってきた。現在、東芝では高卒の工員さんの初任給は10万円くらいであるが、東芝の社長は、その15倍程度の150万円の月給である。もし、戦前のように1万倍というと月給10億円ということになる。これを見てもわかるように、戦後の社会は、給与の面でも、みんなが平等で健康で文化的な生活ができるような社会となっている。われわれが戦後目指してきた平等で平和な社会が続くように、貴君らも今後、東芝で仕事に頑張ってもらいたい。
非常に、いい話で、35年もたつが、いまだに岩田会長の言葉を覚えている。
岩田会長の給与の話と、ゴーンさんの今回の不正給与で逮捕された件を、思い比べて、グローバルスタンダードというけれども、日本は今後どういう社会にしていくのか、格差社会を目指すのか、平等な社会を目指すのか、よく考えたほうがよいと思った。
追記
ゴーンさんの逮捕は衝撃でしたね。
最近、日本も不祥事が多いですね。
世界的な拝金主義と格差社会の醜悪さが露呈してきましたね。
渋沢栄一や松下幸之助を見習ってもらいたいものです。松下幸之助さんが会長を退職した時、退職金50億円というものでしたが、日本の47都道府県の各県に1億円ずつ寄付して、自分の懐にはほとんど入れませんでした。いまだに記憶に残るきれいな引き際でした。それに比べて、ゴーンさんは、もし罪状が本当なら、いただけません。