トランプ米国大統領が就任して

2017年122日 随筆
信州上田之住人和親

1月20日、アメリカにトランプ大統領が就任した。世界中の人々が、彼の唱えるアメリア第一主義に大きな懸念を抱いている。

アメリカは超大国でありながら、これからは世界全体のことを考えずに、中小国と同じレベルで自国アメリカの利益のみを最優先すると宣言している。まず、環太平洋貿易協定TPPを廃棄する。アメリカーメキシコ国境に、メキシコのお金で万里の長城を作る。アメリカが貿易赤字になっている相手国には高い関税をかけてアメリカの利益を守る。イスラム教徒は入国拒否する。第2次世界大戦後、民主主義と資本主義を世界に広めて、世界をリードしてきたアメリカはどこへ行ってしまったのか。トランプ大統領の主張はあまりにも近視眼的だ。アメリカ国内に貧富の格差が広がり、大多数の中間層の低所得化や劣化とともに、一部の大富豪のますますの富の集中とが、国民の怒りを買っているのは事実だが、これは、ここ230年のアメリカにおけるグローバル化戦略と資本主義の結果であり、何も他国に非があるわけではない。自らが提唱して推進してきたグローバル化戦略や資本主義の弊害は、自らより良い方向に修正すればよいのであって、他国を攻撃して、外に敵を作ることはない。他国との貿易や流入する他宗教の人を攻撃して、繁栄した国はない。

今までアメリカを動かしてきた政治家や高級官僚の超エリートたちが、世界中に広めた制度が、第2次世界大戦後のグローバルな平和と繁栄をもたらしてきたが、もしもこれらが崩壊したときは、すべての国が自国の利益のみを追求することになり、世界的戦乱の時代が再び来るのではないかと、世界中の人々が危惧している。

私はこの変化は、日本の平安時代が終わり、鎌倉時代が始まったことに相当するのではないかと感じている。日本は奈良時代と平安時代に、中国から世界標準の政治制度を受け入れ、中国から帰国した多くの日本人留学僧が、高級な政治家やエリート官僚として、国をリードして極めて高度な国家を形成した。その頃の日本文学は、源氏物語をはじめ今でも国宝級の価値がある。しかし、平安末期に中国が衰え、日本からの留学を取りやめた後は、中国へ留学する人はなくなり、中国語のできない愚かな僧の話が鎌倉時代の初めになると、沙石集に載っている。鎌倉時代には、学問をしてエリート官僚となるよりも、武力がものを言い、荘園が蔓延して、国の根幹であった公地公民の制度は、崩壊していく。エリート官僚の貴族よりも武力を有する武家のほうが世の中の中心となり、日本は朝廷という一大帝国からから、群雄割拠の戦国時代へと変化していく。鎌倉時代・室町時代は、文明は衰え、文学も平安時代に比べて極めて低調となる。これは、平安時代の初めには超エリートだった政治家や高級官僚が、平安末期には志が劣化して、超エリートが国民を見下し、国民大衆の貧困や格差に目を向けなかったからではないかと思う。そんな時代になると、有力者は排他的な荘園を作り、その中に逃げ込んでくる人々だけの利益を、武力で守る武士が台頭してくる。国家全体の利益より、荘園の利益を優先する時代となる。そして、日本全体が戦国時代になっていく。

これって、現在の世界情勢と似ているのではないかと、私は思う。これから世界は戦乱の時代になるかもしれない。



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