さぬき昔話2:備前下津井の宿で

 

信州上田之住人太田和親

平成281120日随筆

 

明治の昔、讃岐の国の吉岡村に、八百屋の夫婦がいた。二人には幼い2歳になる女の子が一人あった。

この八百屋の夫が、大阪に商用があると言って妻と女の子を残して旅立った。その頃は、大阪に行くには讃岐の多度津港から瀬戸内海を渡り備前の下津井港まで行くのに1日はかかった。したがって、下津井の町で一泊するのは普通だったらしい。

この八百屋の夫、実は浮気をしていて近所の若奥さんを連れてこの下津井の宿に泊まっていた。二人で朝起きて宿屋の洗面所で仲良く並んで顔を洗っていると、なんと隣にこの八百屋の妻と近所の若旦那とが仲良く一緒に並んで洗面所で顔を洗っているではないか。夫も妻も内緒でここに泊まっているのに、全くの偶然で同じ宿屋に泊まっていたのだ。さらに驚くことに、同伴の近所の若奥さんと若旦那は夫婦だった。つまり、この2組の夫婦は全くお互いに知らずに相手方の夫婦と別々に浮気をしていたのだ。2組の夫婦は、お互いに驚愕したが、この宿で、話し合った。いっそ、夫と妻を入れ替えて結婚し直そうということになった。若奥さんと若旦那にはまだ子はなかった。八百屋の夫婦には2歳の女の子が一人ある。この子がこの夫婦交換の障害になる。そこでこの女の子は、隣村の辻村に養女に出された。私が子供のころ、この女の子は80歳くらいのおばあさんになっていて、近所に子や孫に囲まれて住んでいたのを覚えている。

 

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