信州上田市塩田の地名の起源はアイヌ語
私は、前報「s34_差別の原点は何か―信州上田の歴史から考える―」の最後のところで、信州上田市の塩田という地名は、アイヌ語や縄文語の『siop = 箱形の地形』からきていることを指摘した。そのことをさらに、以下のような新しい資料から考察して、確信を持つに至ったので、これらをここに述べたい。
上田市塩田の地名について(続き)
2018年5月11日-13日
信州上田之住人 太田和親
山田秀三著作集 「アイヌ語地名の研究」第3巻58ページの、「冬部 塩部 (備考二) 」の項が、非常に参考になった。
-----------------------------------------------------------------------
(備考二)シュオプ(スオプ)原義「箱」、北海道では両岸が高く箱の形になった川の処につく名である。冬部沢は、この辺でも特に両岸が立って居るらしいが、箱(シュオプ)(例えば層雲峡の大函、小函)の形の処があるか、無いかも稍疑問である。
-----------------------------------------------------------------------
(1)それなら、上田市塩田でこの地形にそっくりなところがあると、私は気がついたのでもう一度行ってみた。上田市西前山地区の台地から、手塚地区を見下ろすと確かに細長い箱の形になっている。手塚地区の中を産川が流れ、その周りに細長い平地が続きその両側は崖や山になっている。西前山地区で塩野神社一の鳥居辺りや「塩田の郷マレットゴルフ場」辺りから、手塚地区を見下ろしてみるとわかる。
(2)そこで、Google
mapで北海道層雲峡大函、小函をみてみた。なるほど、平地が狭いが、そっくりだ。他にも全国で、似たところがないかと、塩田、箱田で調べてみた。
(3)石川県鳳珠郡能登町大箱:ここは、上田市手塚地区ともっとそっくりだ。能登は元々アイヌ語だし、ここの大箱は、大昔はシュオプと呼ばれていたところではないかと思った。
(4)埼玉県茨城県笠間市箱田:上田市手塚地区の地形にそっくり。
(5)群馬県渋川市北橘町箱田:ここもよく似ており、台地と低地が細長く何条かになっている地形をしている。
以上から、塩田、箱田は元々同じ地形を表していたと思われる。この上田市手塚地区や別所地区には、箱田という姓の方がおられるのも非常に印象深い。
2018年5月20-21日
信州上田之住人 太田和親
大変興味深いことに、手塚地区には「箱田」という姓の人が住んでいる。
そこで、昨日、「箱田」という世帯数を、ネット電話帳で引いてみた。驚くべきことに、「箱田」さんは手塚地区がルーツであることが分かった。下の表1と2を見られたい。
住所でポン!
2007年版 長野県 「箱田」 の検索結果
表1 長野県で「箱田」という姓の電話番号の世帯数
----------------------------------------------------------------
市区町村別苗字分布
世帯数 市区町村名
15 長野県 上田市
2 長野県 上伊那郡辰野町
1 長野県 茅野市
1 長野県 長野市
1 長野県 北佐久郡軽井沢町
1 長野県 埴科郡坂城町
----------------------------------------------------------------
この表を見てわかるように、「箱田」さんは上田市に集中しており、ルーツは上田にあると考えられる。
表2 長野県上田市で「箱田」という姓の電話番号の世帯数
----------------------------------------------------------------
少地域別苗字分布
世帯数 地域名
5 長野県
上田市 手塚
3 長野県
上田市 新町
3 長野県
上田市 前山
2 長野県
上田市 別所温泉
1 長野県
上田市 本郷
1 長野県 上田市 五加
----------------------------------------------------------------
さらに、この表2を見てわかるように、上田市の中でも、「箱田」さんは全員「塩田(しおだ)」(大)地区におり、特にその中でも手塚(小)地区が最も多い。そのほかの世帯は手塚の極周辺地区に分布している。したがって、「箱田」さんのルーツは手塚地区と考えてよい。
1000年か1500年くらい前の昔は、ここは「塩田」だったのだが、その後、和語に訳して「箱田」となったものと考えられる。この地名の「箱田」が人の苗字の「箱田」になった。しかし、「塩田」も「箱田」も全く同じ地形を表していることは上に述べたGoogle mapの調査結果から明らかである。その後の源平の合戦の頃、この地区に有名な手塚太郎光盛が出て、手塚氏の名前が、この地を「手塚」と呼ぶきっかけになったといわれている。光盛の話は平家物語にも出てくる。漫画家の手塚治虫もこの手塚氏の末裔といわれている。そこで、今はこの地区は「手塚」だが、昔は「箱田」、もっと大昔は「塩田」、もっと前のアイヌ語系の縄文語を話していた原住民は、ここをsiop(シオプ)と呼んでいたのだと考えられる。
私は、海のない長野県上田市になぜ「塩田」という地名があるのか、長年不思議だったが、これでなぞが解けた。もうこれで、塩田の地名の由来がアイヌ語であることは間違いないだろう。