親不孝者のヒロシです

信州上田之住人
太田 和親  
2005124日随筆

勉強が出来て一流大学出の息子のヒロシが、わずかばかりの生活費を借りて返せない貧しい老母に、返済を迫った。老母を玄関の土間に座らせ、自分は玄関の上がり框(かまち)の上から立ったまま「返せ」と怒鳴った。ヒロシの妻もヒロシの背後から冷たい視線で老母を見おろした。老母は、金融業の息子のあまりの非情さに、泣きながら言った。「私は、お前を育てるとき、将来私に孝行して楽にさせてくれると信じていた。今、お前が貧乏な母に生活費を返せと言うなら、私は、お前に飲ませた乳の代金を払ってもらおうと思う。天の神様、どうぞお裁きをお願いします。」そのとたんに、ヒロシに天罰が下り、発狂して自ら自宅に火をつけ焼け出された。ヒロシは財産も仕事もすべて失い飢えて、妻子ともども橋の下で餓死したという。
 高齢化社会になってますます、このような話が身近になってくるのではないかと心にしみる話ですが、実はこれは、今から1350年ほど前の第35代孝徳天皇の時代(645-654)の話なのです。「日本霊異記上巻第23話」と「今昔物語集巻2031話」が出典です。私が現代風にアレンジしましたが、全く現代と通じて身につまされる話です。自分はこんなヒロシになっていないか、自分の息子はこんなヒロシになってしまわないかなどと、色々と考えさせられます。皆さんはどうですか?




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