フランス語の連濁と連清の原理について
2018年12月3日 随筆
信州上田之住人 太田和親
昨日フランス語の発音について、改めて見直しているとき、面白いことに気が付きました。
フランス語の発音は、単語一つ一つを発音するのではなく、リズム節というまとまりを、まるで一つの単語のように一気に発音するという規則があり、慣れないと、どこで切るのか、どこを続けて発音するのか戸惑うばかりです。そのため、私は恥ずかしながら、いまだにフランス語をスムーズに読めません。そこで、昨日もう一度フランス語の発音について、改めて詳しい説明を「フランス語文典」で見直していたのです。
フランス語では、発音する時に気を付けなければいけないリエゾン、エリジヨン、アンシェーヌマンなど、英語にはない規則がたくさんあります。そのうちのリエゾン(連音)について詳しく見直していてと、次のような面白いことに初めて気が付きました。
フランス語のリエゾン(連音)において、「連濁の原理」と「連清の原理」が働いていることです。これは日本語における「連濁の原理」と「連清の原理」にそっくりです。
それぞれ下の例を見てください。
(1)フランス語のリエゾン(連音)における
「連濁の原理」
s à
z les amis レザミ
x à
z dix amis ディザミ
f à
v neuf ans ヌヴァン
「連清の原理」
d à
t grand ami グランタミ
g à
k long été ロンケテ
(2)日本語における連濁と連清
「連濁の原理」
大船に乗った気持ち おおぶね
望月 もちづき
小走り こばしり
「連清の原理」
水底 みなそこ
水口 みなくち
日本語では、「連濁の原理」と「連清の原理」が働くのは、二つの単語が別々ではなくくっついて一つの単語と認識されるときに、連濁や連清が起こるといわれています。
そこで、私が、昨日気が付いたのは、フランス語でも、同じ原理が働いているからだということです。リエゾン(連音)がなぜ起こるのかというのを、私が知る限り、フランス語の文法書には一切書いていないのですが、その原動力は、「フランス語では、単語一つ一つを発音するのではなく、リズム節というまとまりを、まるで一つの単語のように一気に発音する」ということから、リエゾン(連音)が起こっていると考えて差し支えないと、思います。
さらに、フランス語は、なぜこのようなリエゾンが起こるのかは、きっと、ローマ帝国にガリアが飲み込まれて、フランス語が成立する時に、原住民のガリア人のもともとの言語の影響でそうなったのではないかと、私は想像しています。
それを裏打ちするように、2018年11月26日付のNHKラジオ「まいにちフランス語」で、大変興味深いことを初めて聞きました。この講座の先生が、「フランス語の80はキャトルヴァンというが、これは4かける20という意味です。なぜこんなややこしいことを言うのでしょうか?」とフランス人ゲストに尋ねました。そしたら、フランス人ゲストの答えが、極めて興味深いものでした。「フランス語が成立する以前に住んでいた原住民のケルト人の数字の数え方が、20進法だったので、そうなったといわれている。ローマ人に支配されたあと、60進法が入ってきたので、今のフランス語は60は、ソワサントという独立した数字であるが、61から79までは、60たす15などと、20進法になっている。これも、原住民の数字の数え方が残ったものだといわれている。」
そうか、フランス語が成立する前の、原住民の言語体系が、数字の数え方や、リエゾンという発音の規則に残っているのだなあと非常に興味深く思いました。
(注意1)日本語の文法の本には「連濁の原理」は載っていますが、筆者の知る限り「連清の原理」は載っていません。筆者独自の命名です。
(注意2)フランス語の文法の本には、「連濁の原理」や「連清の原理」という名称では、書かれていません。