私が誇りに思う繊維学部の歴史と美しいキャンパス

平成30年(2018)513
2018年千曲会報_定年のご挨拶
太田 和親

私の定年退官にあたり、千曲会報にこのように紙面を割いて頂き、ご挨拶できますことを大変嬉しく思っております。私がこのように35年間信州大学繊維学部で勤務でき、無事定年を迎えられましたのは、ひとえに教職員や同窓生の皆様の温かいご援助とご声援の賜物と大変感謝しております。

信州大学繊維学部は、皆様よくご存じのように、明治43年に創立されて以来108年がたちました。しかしながら、前身の上田蚕糸専門学校は、あまり知られていませんが、現在の東京工業大学、一橋大学などと同じレベルの旧制の帝国単科大学として創立されたものであります。私は、このことを、大正年間に出された旧千曲会報[1]を読んで知りました。この中に、明治43年制定の文部省直轄諸学校官制の表が載っており、上田蚕糸専門学校と同列に、東京高等工業学校(現在の東京工業大学)、東京高等商業学校(現在の一橋大学)、東京高等師範学校(現在の筑波大学)、東京外国語学校(現在の東京外国語大学)、秋田鉱山専門学校(現在の秋田大学国際資源学部)などが載っています。東大や京大は旧制の帝国総合大学(imperial university)ですが、このように、本繊維学部の前身は、旧制の帝国単科大学(imperial college)でした。このことは、もっと、本学部の教職員をはじめ学生諸君に知ってもらい大いに誇りに思ってもらいたいと常々思っております。

そのことに関しまして、私の定年にあたりまして、以下の2点を、皆様にぜひご理解の上、運動を継続してもらいと思っています。

1点は、貴重資料を保管するアーカイブス館の建設です。繊維学部には、図書館が管理をしていますが、1世紀を越える中で、大変貴重な書籍や屏風、絵画などがたくさん残っています。例えば日本に4冊しか残っていないといわれる、文久年間に発行された日本最初の英和辞典などがあります。私は、繊維学部図書館長を26年勤めている間、これらの貴重な蔵書が、雨漏りのする老朽化した建物中に置かれている現状に大変心を痛めておりました。研究用の建物には予算が付きどんどん建てられていくのですが、貴重資料をきちんと保管するアーカイブス館には、予算が付かず放置されている間に、これらが煙滅していくのではないかと心配しております。千曲会理事の石坂さんと私の連名で、繊維学部アーカイブス館を、機能高分子棟西側の空地に、ぜひ建設してもらいたいと書面や公聴会で濱田学長に述べてきました。私は、これらを実現する前に定年が来てしまいましたので、残られている繊維学部の教員の方々と同窓生の皆様方に、引き続き、建設に向けて運動を行ってもらいたいと思っています。

2点は旧千曲会館の有効利用です。旧千曲会館のあたりの美しい風景は、戦前の雰囲気を残す唯一の場所でありますが、旧千曲会館が一時、留学生が帰国する時に捨てていった沢山の家電製品などのごみに埋め尽くされ、荒れ放題の痛ましい状況になっておりました。私は、これを何とか国や上田市の貴重な登録財産に指定してもらい有効に残せないかと随筆[2]にまとめて発表しました。これを読んだ寺本先生が、千曲会報にこれを転載してくれ、卒業生に訴えてくれました。それを読んだ卒業生同窓会が中心となり、昨今、旧千曲会館が上田市の登録文化財に指定され、その市からお金と同窓会からの寄付により、修復されております。今年7月ごろに、修復が完了するとのことですが、その後の繊維学部での利用形態はまだよく決まっていないそうです。

そこで私のアイデアを述べます。旧千曲会館の2階には、100年を超える繊維学部の歴史的な資料を展示します。貴重資料アーカイブスの中の資料を3グループくらいに分けて、順番に6か月ごとくらいに資料を入れ替えて2階に展示します。1階は、日銭が稼げるよう、入館料を取るシステムにするか、あるいは、スターバックスのような喫茶店にテナントとして入ってもらうようにすることです。突拍子もない発想のように思えるかもしれませんが、昨年学会で訪れた弘前大学では、学内に立派な資料館があり、さらに学内の歴史的建造物に学外の喫茶店が入って営業しており、前例があります。また、弘前城の前には、登録文化財である陸軍師団長の官舎として建設された木造の建物が、現在スターバックスの喫茶店となっています。そこで旧千曲会館の有効利用は、弘前に学べと思います。弘前も上田も戦災で焼けておらず、よく似た状況にあり、参考になります。

以上の2点、皆様にぜひご理解の上、運動を継続してもらいと思っています。定年を迎えた私からのお願いです。

さて、最後に、私のことですが、皆さん私が4月からどうしているのだろうかと疑問に思っておられることでしょう。私は、4月から、信州大学の研究特任教授となっています。部屋はありませんので、「1週間に1日、3時間」程度、図書館に文献調査に通うことにしました。私は現在までに合計199報の論文、総説、書籍を書きましたが、太田研の104名の卒業生の中で、まだ名前が入った論文を書いていない未発表のものが、2030報はあるので、これを特任教授となって書いていく予定です。また、外国の出版社から本を2冊英語で書いてほしいとの依頼もあるので、本も書く予定です。あと5年はかかると思います。したがって、70歳までは研究を続けるつもりです。なお、私の電子メールアドレスは、名誉教授の特典として、終生使えるそうですので、皆様、私へのご連絡は、今までどおり信州大学のアドレスにお送りください。

最後にもう一度お礼を言います。今回、このように私の定年退官のため本誌に紙面を割いて頂きまして、本当にありがとうございました。同窓会の皆様の、ご健康とご活躍を、そして信州大学繊維学部の今後の益々のご発展を心から祈念しております。

1.      信州大学機関リポジトリ: http://hdl.handle.net/10091/5460

2.      http://www13.ueda.ne.jp/~ko525l7/d1.htm



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