国立大学独立行政法人化後1年目

信じがたい新聞発表の黒字

2005829日
信州上田之住人和親

先日、新聞紙上で、国立大学が独立行政法人化後1年目の平成16年度の財務会計報告がまとまり、国立大学が総額1千億を越える黒字であると、報告されたことは、皆様の御記憶に新しいことと思います。信州大学では21億円の黒字であるとされています。しかし、信州大学では本年の研究費が昨年の10分の1になるなど厳しい財政状態であり、我々の実感とは大きくかけ離れております。多くの、教員が、この決算報告は本当だろうか、粉飾決済ではないだろうか、文科省は、国立大学法人化は成功したと言いたいために、借金を別枠に計算しているのではないだろうか、などと色々考えられ、大変不安に感じておられる事と思います。

 そこで、インターネットで調べてみますと、信州大学などの国立大学は、主に医学部付属病院などの運営・設備費など多額の費用が、文科省の運営交付金以上に必要だったので、それまで財政投融資から賄っていたことがわかります。そのため平成16年4月の独立行政法人化直前にはその累積赤字の総額が12600億円にもなり、信州大学では433億円にも達していることが、下記の資料(1)(2)からわかりました。全国の国立大学の中でも10番目に借金が多いのです。信州大学の総資産(資本金に相当)は800億といわれており、実に資本金の55パーセントもの負債を抱えていることがわかります。私企業であれば既に倒産状態でしょう。資料(2)の別表からわかるのは、東大などの旧制帝大ではもともと総資産の規模が信州大学の10倍も20倍もあるので、そのような旧制帝大の負債が、500億円から900億円あっても総資産に対する割合はもっと小さいものになるでしょう。それで、本当に負債率が高いのは、もともと総資産規模が小さい岐阜大学と信州大学であると考えられます。負債の大きい大学は、皆医学部を抱えているところです。医学部を抱えていない名古屋工業大学のホームページを調べてみますと、借金はゼロです。ここの財務体質は抜群です。倒産の危険度の高い大学は、岐阜大学と信州大学のようです。信州大学の教員として、大変不安に思います。しかし、先日の学長懇談会では、学長からも財務部長からも借金に対する明確な説明がなく、財政再建に対するビジョンも語られていません。現学長は、医学部出身なので、借金の元凶が医学部付属病院であるとは言えないでしょう。それで、説明が出来ないのではないかと思います。ほとんどの教職員が、信州大学が433億円もの多額の借金を抱えていることを知らず、先日の新聞発表の黒字記事を鵜のみにしているのではないでしょうか。

 信州大学のホームページを見てみますと、中期目標6カ年計画が出ています。それによると、毎年、債務償還(借金返済)に、何と33億円が予算計上されており、6年間で約240億円が借金返済に予算が当てられております。そんなこと「よさんかい!」とも思いますが、教員研究費や学生実験実習費の総額は24億円/年であり、借金返済額の33億円/年より少額であることがわかります。このへんに、信州大学が本年の研究費が昨年の10分の1になるなど厳しい財政状態になった原因があると思うのですが、皆さん如何でしょうか。

 信州大学の中で、繊維学部が最も財務体質が良いと言われています。したがって、医学部が作った多額の借金を、信州大学全体で背負わされて、共倒れになるのは、なんとも納得が行きません。繊維学部は、独立行政法人の中で、さらに独立するか、分離して東京工業大学上田分校になるなど財務体質の良い所と合併を模索するとかが、共倒れしない方策はないでしょうか。しかし、医学部の立場に立ってみると、「国立大学の医学部は、もうかる体質には出来ていない。臓器移植などの高度医療を研究開発するには、多額の費用が要る。たとえば肝臓移植は1件約1000万円かかる。これを患者に全て医療費として請求することは出来ない。このようなことは国家としてやるべき仕事であるから、国からの十分な財政支援がなければ国立大学医学部の付属病院など、1つとして成り立たない。全てが、民間の私立病院のように利益を出せといわれれば、臓器移植など高度医療の研究開発など出来ない。公共性の高い国立大学付属病院をどうするのか、国民全体で考えてもらいたい。小泉首相は『民間に出来ることは民間に』というが、全てが民間で出来るものではない!」となるに違いありません。しかし、繊維学部としては、医学部と一緒に倒産するのはいやだし、国益という観点から考えれば国立大学の医学部の採算を度外視した公益性という点も一概に否定できないでしょう。

 今までは、郵便貯金・簡保の資金が、財政投融資として、国立大学付属病院に流れてきていたのですが、2003年度から、「財政投融資は、官僚のさじ加減だけで決まってしまうので、赤字がどんどん膨らんでしまう。許しがたい制度だ」ということで、この制度が無くなったらしいです(資料(4)(5))。そのため、新たに財政投融資は期待できないうえ、今までの借金は返済するしかないようです(資料(3))。

 理科系の研究室では1020人と学生や院生を抱えていますと、消耗品代として年間少なくとも300万から600万円はかかります。1000万円以上かかるところもあるでしょう。したがって、国から年間5万円や10万円でこれらの学生・院生の研究指導はできません。外部資金だけで理科系の研究室を運営しろといわれましても、ほとんどの教員には不可能なのです。年間5万円でごまんえつ!(御満悦!)の教員はどこにいません。したがって、倒産する研究室が早晩出て来るものと思います。教員は皆、赤字を心配して青くなっているのが実情です。

 新聞発表の黒字というのは本当に信じられません。来年から、研究費はどうなるのか、一般の教員や学生院生に、明確に、信州大学の長たる学長から説明していただきたいと思う日々を過ごしています。特に、財政投融資で作った多額の借金(債務)を、どうやって返済(償還)していくのか。信州大学は倒産の危機にあるのではとの、危惧を本当に払拭できるように、一般教員や学生院生に、早期に説明会を開いてもらいたいと思います。

 さもないと、優秀な教員は外へ出ていってしまい、大学院入試や学部入試には誰も受験しなくなるのではないかと心配です。大学は受験生が集まらなくなったら終りです。定員割れが3年続けて発生した学科・学部・大学はスクラップにしてよいという法律があると聞きました。繊維学部は20年ほど前にもこのような存亡の危機があり、私ども教員は大変努力をして今日のように隆盛を見る事が出来ました。今度の財政危機も何とか乗り越えたいと思います。繊維学部の教員の危機感に比べ、大学本部に危機感が感じられません。学長・理事は財政再建に対し、明確なビジョンや将来性のある対策を早急に教職員及び学生・大学院生、正直に語るべきです。

以下資料(1-5

資料(1http://www.ishii-ikuko.net/kokkai/156/gijiroku/030514.htm

2003515日(木)「しんぶん赤旗」

国立大学法人法案
国が債務負担押し付け
衆院委で石井議員 付属病院問題ただす
(要旨)国立大学の長期借入金が膨大な額(総額12600億円)になっていることを指摘。国立大学が軒なみ赤字(信州大学、433億円の赤字など)となっているなかで、「各大学法人はどれだけ債務を負担し、どのように返済をおこなうのか」とただしている。とりあげたのは国立大学の設備整備のための長期借入金は、法人化前まで国の責任で返済していたものが、法人化によって大学法人に返済義務が課されることになる事が、財政破綻を引き起こすと指摘している。

資料(2http://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-05-23/04_04.html

2003523()「しんぶん赤旗」

大学統制を強化
国立大法人法案
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(要旨)政府は、国立大学の付属病院整備のため財投資金から借り入れし、毎年、償還しています。法案では、この借入金を各大学が付属病院の収入から償還する義務を負います。文科省は十二日、日本共産党の児玉健次衆院議員の要求に応じて、各大学の借入残高を提出しました(別表)。それによれば、二〇〇二年度末の国立大学の借入金残高合計は一兆二千六百億円にもなります。さらに、二〇〇一年度決算で東京大学で八十億円、九州大学で四十四億円の単年度「赤字」となっていることが明らかになりました。
-------------(別表)-------------
国立大学特別会計の借入金
大学名 債務額(単位:億円)
東京        941
東京医科歯科    739
大阪        728
九州        620
京都        580
東北        560
北海道       542
名古屋       519
岐阜        465
信州        433
33大学は略)
43大学の合計  12,637
文科省資料から作成。同省が2002年度末現在の決算見込み額から計上(利子を含む)。実際に承継する金額は2003年度末のもの。
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資料3http://www.sci-news.co.jp/news/200312/151212.htm

平成15年12月12日号/科学新聞

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国立大学法人に借財1兆数千億円
(要旨) 国立大学法人は1兆数千億円の借金を抱えることになりそうです。文部科学省が現在検討している法人制度設計では、財政投融資からの借入金1兆数千億円を各国立大学法人がそのまま引き継ぐことになるとのことです。
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資料(4)小泉純一郎、「官僚王国解体論」、光文社1996.

資料(5)大人の参考書編纂委員会編、大人の参考書「構造改革がわかる」、青春出版2001.



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