就職担当教授悲喜こもごも

 

信州上田之住人

太田 和親

20091226日随筆

 

△△会社□□君へ

 

(以下、貴君の電子メールに返事を書いていたら長くなりました。長いので、後は気が向いた時にゆっくり読んで下さい。なお、文中差し障りがあるところは伏せ字○○にしていますが、気にせず読んでみて下さい。)

 

 今年4月に御社に女子の院生1名、○川さんを採用して頂いています。先月、その彼女が私の学部へリクルーターにやってきました。その時の話によると、御社の採用人数が例年40名くらいですが、今年と来年はそれぞれ10名と大幅に少なくしていると聞きました。それで、今のM2(修士課程2年生)の男子学生が、○田研から今年3月ごろに受けに行って、○田研出身者として初めて御社に落とされてしまいました。○田研出身者は今まで落とされたことがないのに、優秀な彼でも落とされたことや採用人数が激減していることから、今年のM1(修士課程1年生)は御社を受けるのをためらっています。今年4月に入社した○川さんの学年は大変就職状況がよかったのですが、今のM2,M1は、36年ぶりの大不況に見舞われ一転して大変な厳しい就職状況となりました。その発端であるリーマショックあった直後の昨年の200810月から、私は就職担当委員をやっています。今年1年の私の最も大きな出来事は、この就職担当委員として奮戦したことです。

 今年私は○○学科就職担当委員として、大変苦労はしましたが、最終的に○○学科の就職内定率は98%でした。M233名全員内定、学部4年生は10名就職希望者中9名が内定、1名未定です。この1名は自主留年する予定です。私は、幸か不幸か36年前の大不況の経験者ですので、大不況になった時にどのようなことが起こるか事前に判っていてその対応をとったため、○○学科では、内定状況が非常にいいですが、他の学科は現時点で85%くらいで、○○学部全体で就職未定者は20名ほどいます。全国的には大学生の内定率が70%ですからまだいい方といっていいかもしれません。私の経験から言って、若者が就職が決まらないことくらいつらいことはなく、就職担当委員の私のところへ、青い顔をして相談にきた学生の話を2時間3時間と聞いてやることもしばしばで、話を聞いて泣けることもありました。話を聞いてやらないと変なことを考えてしまうといけないので、ずっと聞いてやるのですが、そのうち顔の表情も良くなり、私のアドバイスも耳にはいるようになるという状況でした。特に女子学生は成績が上から5番以内でも、10社も20社も落とされるので、めいってしまい、電話口で泣かれたこともあります。私も同じ年ごろの息子や娘がいるので大変身につまされました。

 就活先から、私に電話があり、「○○社はお父さんのコネも使い最終の4次面接まで行ったので、もう大丈夫、内定がもらえると確信しています。しかし、人事の人が331日までに結果を知らせると言ったのに、今日41日になっても連絡がありません。先生から聞いてもらえませんか。」「いや、それは推薦状を書いた君の研究室の教授が普通することだよ。」「○○先生、怖いんです。」「そうだな。俺も○○先生怖いなあ。じゃあ俺から聞いてあげるよ。」そこで、その会社に電話したところ、人事担当者は入社式に行って留守ですので、後ほど必ず○田先生のところへお電話しますとのことでした。それから4時間位して電話があり、「○山さんは非常に良い人でしたが、最終的に残った方々と比べまして・・・、縁がなかったということで御了解下さい。」これは、最終的に残った同じレベルの男と女を比べると、男の方をとるということだなと私は直感しました。こういう結果の時の電話は大変しづらいものです。就活先の彼女に電話をかけ、「・・・ということで縁がなかったということだった。」という私の電話に、電話の向こうで絶句して、泣き声が聞こえるのです。期待していただけにショックが大きかったのでしょう。こちらだって、同じ年ごろの娘がいるから泣けてきます。消え入るような声で「有り難う御座いました。」といって電話を切った直後、私は、胸騒ぎがして変な気を起こしちゃいけないと思い、すぐに電子メールで彼女に、「○○という会社も今求人にきているから、出しなさい。また、大不況になった時は、20社や30社落ちても平気でいることだ。君が悪いのではない、今の経済情勢がそうしているのだから、絶対に落ち込んではいけない。」と書いて出しました。それから1時間くらいしてから、「先生の優しいお言葉に、涙が出ました。がんばります。」と返事がきて、私はほっとしました。私だって泣いているのです。

 彼女は○○研の修士の大学院生で、成績も良く性格もいいのですが、出す会社出す会社書類審査ではねられてしまうのです。私は、君はなかなか受からないからといって小さい会社の方が受かりやすいと思って、段々100億以下、20億以下と資本金の小さい会社小さい会社と受けているのではないか。そのような小さい会社は、大不況になったら真っ先に女性はとらない。雇用機会均等法があるので女性はとらないとは表向き絶対言わない。だめと書いてないからといって、受けても会社の方で女性をとる気がないので受からないのだ。もっと大きな500億以上か1000億以上の資本金の企業を受けなさい。そういう大きいところは、女性を上手に使うノウハウが出来ているので、絶対受かりやすい。君のように成績のいい人は絶対に受かるから、ターゲットを切り替えなさい。このアドバイスで彼女は大きい名のある○○という資本金1400億の会社に決まりました。私も大変嬉しかったです。

 以上のように、今年1年の私の最も大きな出来事は、この就職担当委員として奮戦したことです。就職担当教授として悲喜こもごもでしたが、まさに、旧制一高の寮歌にある「友の憂いに吾は泣き、吾が喜びに友は舞う」という心境でした。

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