「定理が生まれる: 天才数学者の思索と生活 」  セドリック・ヴィラーニ (), 池田 思朗 (), 松永 りえ () の書評

平成26年(2014年)621

信州上田之住人 太田和親

 

本書は、ボルツマンが100年以上も前に提唱したボルツマン方程式から導かれるエントロピー増大の法則や平衡状態に至る理論を、数学的に完全に証明したということのようである。大学で熱力学を教えている者にとって、ボルツマンの理論は非常になじみのあるものだが、私はこの本で初めて、ボルツマンの理論がまだ数学的に完成されていなかったというのを知った。著者セドリック・ヴィラーニの数式は私には高度すぎてわからないが、誰か、熱力学との関連でやさしく解説してもらえる人が現れてほしいと思った。

 ところで、256ページの「Poincare Chair」をポアンカレ席と和訳されているが、大学人からすると普通、Chairは講座と訳す。また、287ページの「トカイワイン」は、私も国際会議で飲んだことがあるが、知り合いの学者が、このワインはハンガリーの「トーカイ」という地方のワインだ。日本の地方にも同じ地名があるだろう。ああ「東海」地方というのがあるよ、というやり取りを覚えているので、トーカイという和訳の方がいいのではないかと思った。「都会」のワインではないと思う。


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